八海山のこだわり

No.14 しぼり、火入れ

アコーデオン型の「もろみ圧搾機」を使って、「しぼり」を行う。200枚あるフィルターに付着した粕をはがす作業だけでも1時間かかる。

もろみをろ過して、原酒と粕とに濾し分ける

現在、8台がフル稼働する「もろみ圧搾機」

オートメーション化された瓶詰め工程

勢いよく飛び出す清酒。貯蔵、熟成、ろ過など微調整を経て、瓶詰めへ

以前に述べたように、アルコールを造る清酒酵母の大量純粋培養の工程がいわゆる酒母造りというわけですが、この酒母の仕込みから40日あまりで、酒造りもいよいよ最終近く“上槽”と呼ばれる工程に入ります。
上槽とは、もろみのろ過工程のことですが、昔からの“しぼり”という言葉のほうが実感が湧くかもしれません。事実、かつてはもろみを酒袋に入れ、この袋を吊るして原酒を滴らせたり、“フネ”と呼ばれる箱の中にもろみの入った袋を敷き詰め、酒袋そのものの重みでもろみを搾って原酒を取り出したりしたものです。これは酒粕を含んだもろみを搾ることによって、原酒と粕とに濾し分けることなのです。

現在では、八海山のレギュラー酒は大型のアコーデオンのような蛇腹状の圧搾機の中にもろみを送り込み、搾っています。この「もろみ圧搾機」は薮田式自動もろみ圧搾機で、全国の8割の酒造メーカーが使用しています。八海醸造にはその圧搾機が8台あり、フル稼働しています。もろみの送入が終わると送入バルブを閉じて圧縮した空気を吹き込み、圧搾が始まります。タイマーによって送入圧力を自動的に高くしていきます。
このとき、もろみにかける圧力は、最初1キログラム/c㎡から初めて、30分ごとに0.5キログラムずつ上昇させ、最大圧力を7キログラム/c㎡まで達します。14時間圧縮空気をかけ、翌日までに21時間かけて搾るわけです。
圧搾機の中のアコーデオンのような凹凸の本体にはフィルターの板(ろ板)が200枚はさまっていて、それでもろみをろ過して、そこに粕が溜まる仕組みになっています。したがって、このフィルターに付着した粕をはがすだけでも1時間もかかる大仕事になります。

以前「米を磨く」の項でも述べましたが、原料米を磨いて、出来るだけ米の中心に近い部分だけを使って質の高い酒造りを目指しているわけですが、この磨きの工程を精米と言い、この磨きの程度を精米歩合と言いました。精米歩合とは玄米重量に対する白米の重量の割合をさします。ほかの蔵では平均精米歩合が58%のところもあれば、70%位のところもあります。大吟醸造りの酒質を普通酒でも目指している八海醸造では、平均の精米歩合も55%と低く設定しているのが特長です。
この精米歩合に対して、上槽で得られる酒粕の割合を粕歩合といいます。粕歩合とは、使用白米重量に対する酒粕の重量割合を言います。ごく大雑把な云い方が許されるなら、この割合が高ければいい酒ということになります。
これもほかの蔵では30%以下が多いのですが、八海醸造では普通酒でも34.3%、吟醸酒で43.7%、全種類平均でも全国平均を大きく上回る38.1%と高い粕歩合となっています(数値は平成16酒造年度のものです)。一般的にはこの割合を高くすれば、粕の部分にアミノ酸など雑味となる成分が吸着されることとなり、高品質の造りを目指しているということになります。米をもっと溶かし、酒粕の少なくなるような酒造りをすれば、より多くのアルコールが得られますが、肝心の酒質は私たちが求める「上品でいくら飲んでも飲み飽きしない、美味しいお酒」「食事の味の邪魔にならず飲み飽きしない高品質なお酒」とはかけ離れてしまう可能性が大きくなります。このような高い粕歩合での酒造りは、八海山という酒を造るうえでの大前提なのです。

加熱殺菌で風味の劣化を防ぐ

こうして搾った原酒は、そのままでは火落ち(酒造用語です。ヨーグルトを作るときに使用する乳酸菌に類似の菌で、製造工程では必ずといってよいほど混入しており、これが貯蔵中やビン中で増殖する現象)の危険や未加熱酵素類(糖化酵素やタンパク質分解酵素など)を含んでいるため、味が変わりやすいのです。それを防ぐために“火入れ”(殺菌と酵素作用の失活化)と呼ばれる仕上げ工程があります。
まずフィルタープレス型のろ過機内部に原酒を送り込み、ろ過を始めます。その後、ろ過した清酒を加熱殺菌させるのです。これを火入れと呼びます。
火入れは温水をポンプで、プレートヒーターと呼ばれる熱交換器内に循環させ、その逆方向に清酒を通過させるという熱交換の原理を利用して行います。自動温度設定で、火入れ温度は貯蔵タンクに入った時点で65℃とするのが標準です。生酒は火入れ工程がないため、火落ちの危険と、未加熱酵素類を含み、味が変質しやすいため早めに賞味するか、0℃前後の低温保存が必要となります。

火入れ後に貯蔵タンクに収納された酒は、すぐに急冷するのも大事なポイントです。急速な低温貯蔵は清酒の鮮度保持に欠かせないのです。
貯蔵は地下タンク(2万1,000L×94本)で行います。地下水などを利用して貯蔵温度は年間を通して14℃を保っていきます。

いよいよ大詰め、最終工程へ

最後の最後が出荷工程です。貯蔵タンクから出した清酒を均一な酒質で出荷するために、まず行なうのが調合・ろ過・割水と呼ばれる微調整です。これは、貯蔵酒の分析値を参考にして行います。
その後、再度、ろ過、割り水などの工程で混入が予想される火落菌を殺菌する目的で、再び65℃で加熱殺菌し、瓶に詰めて、出荷となるのです。この瓶詰め工程を簡単に述べておきましょう。まず空瓶を洗瓶機で洗い、乾燥させたそれに加熱殺菌した清酒を充填し、王冠打栓(栓をして)してパストクーラーで急冷しラベルを貼り、ケースあるいは段ボールに入れて出荷となります。瓶詰め工程はこの間、一貫してオートメーションで行っています。

連載の終わりに・・・・・・

以上「こだわりの酒造り」と題して14回にわたり述べてまいりましたが、最新鋭の機械化と化学分析による的確な判断、それと永年の経験と伝統、なににも増して「手造り作業を主とした大吟醸酒製造技術の全種類製造への応用」という八海醸造のポリシーがこういったきめ細かな酒造りを推し進めてきたのです。これからも、この目標に向かって八海醸造は歩み続けます。
最後に社長、南雲二郎が第1回で語った言葉を再録して筆を置きたいと思います。
「八海山はすべてのセグメントの酒で最高のものを目指す。当社で製造する清酒はすべて高品質な酒であると自信を持って言えるような酒を造るのが私たちの使命だ、というのが私の考えです。そして、いい酒を呑みたいという皆さんの声に全力で応えていきたい。もとより、高品質な清酒を造るには生産の限りがありますが、どんなに多くの人から求められても、絶対に品質を落とさずに、皆さんのご要望を満たすだけの量を生産し、もっともっとたくさんの人に日本酒の素晴らしさを楽しんでほしいというのが、この蔵で酒造りに携わるすべての人間の願いです」。(おわり)

記 1999年  森田洋[出版プロデューサー]

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