八海山のこだわり

No.1 八海醸造の技と志

床もみ…室温35度程度の室で、種麹を散布した後の蒸米に胞子が均一に付着するようにもみ込む作業。蒸米を床台の中央に寄せ、少しずつ外側にもみ広げます。同時に品温の調整を行っています。

より高品質の酒を造るために、設備を整え、機械を導入する

秋になって酒蔵に音が戻ってきました。それはいろいろな音です。
精米機の強力な電気モーターは力強い音を奏でます。連続蒸米機の蒸気はシューシューと元気な音を立てます。麹室の木の床には蔵人の忙しげな足音が響きます。
夏の間、造りを休んでひっそりとしていた蔵が、元気を取り戻すのは秋なのです。
皆さんもご存知のように、酒造りは複雑な工程です。精米し、その米を蒸し、麹の力で米を糖化し、酵母の働きでその糖をアルコールに変えます。
かつての酒蔵では、そんな複雑な工程をすべて手仕事ですませていました。

しかし、現代の酒蔵では機械も活躍しています。いや、機械があるからこそ、江戸時代や明治時代の蔵では想像もできなかったような、高品質の酒を安定して製造できるようになったのです。
八海醸造も新しい設備や機械の導入には積極的に取り組んでいます。ただし、人手を減らしたり、製造をスピードアップするためにそうするのではありません。八海醸造の設備や機械は、より高品質の酒をめざして導入されたものばかりです。

大吟醸酒の造りをすべての酒造りに応用したい

では、私たちが造りたいと思っているのはどのような酒でしょうか。それは品格のある淡麗旨口で、おいしく、飲み飽きしない酒です。弊社の社長、南雲二郎はいつも次のように言っています。

「八海山はすべてのセグメントの酒で最高のものを目指す。当社で製造する清酒はすべて高品質な酒であると自信を持って言えるような酒を造るのが私たちの使命だ、というのが私の考えです。そして、いい酒を呑みたいという皆さんの声に全力で応えていきたい。もとより、高品質な清酒を造るには生産の限りがありますが、どんなに多くの人から求められても、絶対に品質を落とさずに、みなさんのご要望を満たすだけの量を生産し、もっともっとたくさんの人に日本酒の素晴らしさを楽しんでほしいというのが、この蔵で酒造りに携わるすべての人間の願いです」 八海醸造の考え方をひとくちで言うなら、「大吟醸酒製造技術の全酒類製造への応用」ということになります。大吟醸酒の造りは酒造りの中でももっとも厳しいものです。

米粒の3分の2近くを糠にしてしまうほどの高精白、そして、あえて酵母が活動しにくい低温で発酵させ、大吟醸酒ならではの味わいを持った酒を造ります。そのためには人手もかかりますし、時間もかかります。「大吟醸酒製造技術の全酒類製造への応用」とは、そんな大吟醸酒の造りを、蔵のすべての酒造りに応用しようということなのです。

いい酒を造るには、人の手仕事と米を使い切る技術が欠かせない

櫂(かい)回り…仕込みタンクで発酵中のもろみの品温管理をするための作業。 発酵が進むにつれ液状になっていくもろみに空気を送り込んだり、もろみ全体の温度や成分を均一に調整するため「櫂入れ」を朝夕2回行う。

たとえば、八海醸造ではどんな酒でも麹は手造りです。機械メーカーはすでに麹を自動的に育てる機械も開発していますが、八海醸造はまだ導入していません。八海醸造がめざす、最高品質の酒を造るために必要な最高の麹を育てるには、まだ人間の手仕事が不可欠だと考えているからです。 どんな酒の麹も、麹室の中に引き入れた蒸米に人間の手で麹菌を振り、切り返しも人の手で行っています。仕込みの大きさは最大でも白米3トンです。なかには20トン、30トンなどという大きな仕込みを行う所もあると聞きますが、発酵を理想的な状態にコントロールするためには、3トンが限界だと思うからです。 もろみ管理においても、雑味がなくまろやかでソフトな味に仕上がるように、また、香りもほのかな吟醸香をひきだすために長期低温発酵を行っています。すべて、大吟醸酒という最高の日本酒の造りを応用しているのです。

ちなみに国税庁が定めている日本酒の製法品質表示基準(※)では、本醸造酒という名称が使えるのは、精米歩合が70%以下となっていますが、八海醸造の本醸造酒は55%です。
また、同じく、国税庁の基準では普通酒については精米歩合についての制限がありません。どんなに「黒い米」を使ってもいいわけですが、八海醸造は普通酒でさえ60%の精米歩合にしています。
基準では吟醸酒の精米歩合は60%以下となっていますから、八海醸造の酒は精米歩合だけとれば、最低でも60%ですから、すべての酒が吟醸酒と言うことさえできます。
米の精白度を高くしさえすれば、必ずいい酒ができるというものではなくて、よく磨かれた白米はいい酒になる素質を持っているということでしかありません。その素質を100%酒に生かす技術、言い換えれば、米を使い切る技術が必要なのです。
この連載では蔵の中の設備や機械も取り上げながら、私たちの酒造りをお伝えしていきたいと思います。

(※)平成元年国税庁告示第8号、平成9年に一部改正(同告示第2号)

記 1999年  井出耕也[フリージャーナリスト]

この記事をシェアする
このページの先頭へ