八海山のこだわり

酒蔵の「おっかさま」第4回

八海醸造の「おっかさま」、南雲仁が語る酒蔵の昔 vol.4 昔も今も変わらない… 酒蔵でのもてなし料理を話ましょうか

地元の「旨い」で、皆幸せ

料理は「やってるうちに興味が出た」と仁さん

うちは酒屋ですから、いろいろなお客様がお見えになります。そういうとき、うちでわたし流の料理をして召し上がっていただくようにしております。
お料理屋さんにお願いすればもっと立派にできるでしょうに、わざわざうちでいたしますのは、この土地で採れるものを、この土地に感謝して、有り難く使わせていただくその気持ちですと‥‥言葉は良いんですが、本当のところはう~んと安いから。昔は本当に小さくお金のない酒蔵でしたから、しかたなくこういうことを始めたというわけもあります。
材料はわたしが自分で探して用意します。魚沼の野菜はおいしいんです。昔、村のお年寄りがこんなことを言っていたのをおぼえています。「このへんは雪が降るんだんが、雪がベト(泥)を洗ってくれる。だから根のもんがうまいんだ」って。うまいこと言いなさるもんだなあと感心しました。
この季節(8月)は、近くの野菜直売所に行きますと立派なキュウリが12、3本入って100円ですよ。今朝も買ってきて、生で食べました。
料理をいたしますもんで、あなたは料理が好きなのねと言われたりします。いいえ、いまでも嫌いですからね。ただ、どうしてもやらなくてはならないということになって、じゃあどういうふうにやりましょうかって、やってるうちに興味が出てきただけです。

仕事は天からの授かりもの

仁さんお手製の料理

いまはね、仕事が自分に合うとか合わないとか、面白いとかつまらないとか言いますでしょ。でも仕事ってある種の授かりもの。それに自分がぶつかっていくところから面白みが生まれてくるんであって、石の上にも3年というのは本当だなあと思ったりします。
食べ物で言いますと、いまはそんなことはありませんが、魚沼は海から遠いので昔は魚が古くてねえ。赤目イワシなんてのを売りにきました。そんな種類の魚がいるわけじゃない。古くて目が赤くなっただけなんです。
肉にしたって、こんなにラクラクと肉が食べられる時代がくるとは思いませんでした。うちではブタとヤギとニワトリを飼っておりまして、冬になると「そろっとやるか」ってなもんで和雄たちがブタをさばくわけです。どーんと4つ切りにしたものがわたしの所に来ます。それを使い易い大きさに切って、煮たり焼いたり、蔵人みんなして食べました。 ブタの腸でソーセージも作りました。1斗カンに穴あけて、それを薪のカマドにかぶせて燻すわけです。たいして難しいものじゃありません。でも農業指導員の人に褒められましたよ。「ここの姉サはハラワタもいやがらんでいいねえ」と。いやも何も、食べられるならいいじゃないですかねえ。
でもあのソーセージ、燻製にしたのを廊下に並べて吊るした覚えはあるのだけど、あんまり食べた覚えがない。どうなったんでしょう。親戚やご近所に配ったんでしょうかね。 考えてみれば、八海醸造やわたしどもがこうして暮らさせていただけるのも、みなさまのお蔭としみじみ有り難く、ついこんな昔話をしてしまいました。

聞き手・文 宮本貢  写真 鈴木芳果

南雲 仁/なぐも・あい

八海醸造の先代社長、南雲和雄夫人。和雄社長を陰ながら支え、現在の蔵の礎を築いた。評判の手料理でたびたび来客をもてなしてきた。酒蔵で働く人びとからは親しみをこめて「おっかさま」と呼ばれている。

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