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酒母の発酵過程で発生する炭酸ガスの泡は、酒母タンクから流れ出してしまうほど。泡消し機でそれを防ぐ。

「品物の面を見ながら酒を造る」
酒母造りの仕事は、まず水麹を造るところからスタートします。酒母は麹、乳酸、酵母菌、蒸米を仕込み水に仕込んで発酵させ、麹菌や乳酸菌の力を借りながら、酒造りに役立つ純粋な酵母菌だけを大量に培養したものですが、まずは麹、乳酸、酵母菌を仕込み水に入れます。これを水麹と言いいます。
この水麹に蒸米を加えるのは、水麹を造った後、だいたい2時間ぐらいたってからです。仕込み水も水温は12度という低いものですから、それぐらいの時間をとっておく必要があるのです。「品物の面(つら)を見ながら酒を造る」。これも酒造りの極意のひとつですが、水麹造りも面を見ながら行われるわけです。
水麹の水温は12度という低いものです。そこに蒸米を入れると、麹菌の酵素が溶けた水が、蒸米の内部まで入り込みますが、麹菌の酵素が蒸米の中にたっぷりと入り込むまでには時間がかかります。

米を見て、水を見て、麹を見て、乳酸を見て、蒸米を見て、さらに、その水麹の状態を見て…という具合で、目の前にある品物とお話をするようにして、ひとつひとつ仕事を進めていく、それが昔から酒造りの知恵でした。いくら酒造技術が進み、設備や道具が新しくなっても、この根っこのところは変わりません。いや、変えてはいけない。まず水麹を造るのも、そういう知恵から生まれたことなのです。

酒母造りの仕事は酒母室という特別な部屋で行われます。この部屋には酒母タンクがいくつも並んでいます。といっても、そんなに厳重に仕切られているわけではなく、ドア一枚で廊下と分けられているだけです。
酒母室に出入りする蔵人も、特別な服装をしているわけではありません。野生の酵母菌はどこにでもいますから、出入りする蔵人の服にはいろいろな酵母菌が付着していることでしょう。それでいて、最終的な酒造りに役立つ酵母菌だけが大量に育つのですから不思議です。

酒母室に入ると、ブーンという低い音がどこからか聞こえてきます。発酵する麹や酵母の甘い匂いもします。ブーンという音は酒母タンクの上に載った泡消し機の音です。酒母は発酵過程のある時期になると、盛んに泡立ちます。発酵とともに生まれる炭酸ガスがつくる泡です。
この泡は、そのままにしておくと、酒母タンクから流れ出してしまうほど大量に発生します。それを防ぐために泡を消すのが泡消し機です。

大吟醸酒は手でかき回す
酒母タンクは普通のドラム缶よりも少し大きい程度です。また、酒母用の麹には、普通酒であっても本醸造酒であっても、酒造好適米の五百万石(精米歩合は55%)を使います。言うまでもなく高精白です。
普通酒はその価格の手頃さから「経済酒」と言われてきました。今のような酒の種類の分け方になる前は、特級酒とか一級酒とか二級酒とか呼ばれ、普通酒は昔の二級酒にあたります。二級酒は値段を抑えて庶民にも親しみやすい酒でしたから、経済酒と呼ばれたわけです。そういう酒でありながら、八海醸造では、高価な酒蔵好適米を惜し気もなく使い、おまけに吟醸酒並みの高精白米で麹を造っています。

大吟醸酒の造りが始まると、酒母室では面白い光景が見られます。いや、面白いというよりも、酒造りにかける蔵人の心意気が見えるような光景と言ったほうがいいでしょうか。
酒母室はいつも低温に保たれています。寒がりの人だったら暖房がないと、とても長くはいられないでしょう。部屋の空気は冷え切っています。そんな中で水麹を造り、さらに蒸米を投入するのですが、大吟醸酒に限っては上半身裸になった若い衆が、腰のところで体を折って、上半身を酒母タンクの中に入れて、水麹と蒸米がよく混じるように素手でかき回すのです。この若い衆が酒母タンクの中に落ち込んでしまわないように、両足の足首をつかむ役の人もいます。
理屈を言えば、冷たい水麹に手を入れてかき回さなくても、水麹と蒸米は馴染んでいきます。八海醸造でも以前は手でかき回すことはしなかったのですが、いつの頃からか、大吟醸酒に限っては手でかき回すようになりました。少しでも酒造りにいいことなら、何でもやってみようという蔵人の心意気がそうさせるのです。

厳密な品温の管理
さて、酒母造りにもいろいろな技が注ぎ込まれていますが、その大事な技のひとつは品温の厳密な管理です。酒母の温度を上げ下げしながら発酵を進めていくのです。
最初は温度を上げます。12度という低温のままでは、麹菌や酵母菌の増殖に勢いがつきませんから、蒸米を加えたところで、いったん20度まで品温を上げて発酵に勢いをつけます。しかし、勢いをつけたままでは、こんどは増殖のスピードが速くなりすぎてしまいますから、次第に温度を下げていきます。

発酵が早すぎることを「早湧き」と言います。こうなるとアルコール分がどんどん増えていきます。ところが、酵母菌はアルコール分が多すぎると活動が鈍り、増殖が抑えられてしまいますから、早湧きは禁物なのです。
麹菌が糖分を生産し、その糖分を栄養源として酵母菌がどんどん増えていき、アルコールを生産する。それが酒母なのですが、アルコール分の生産が進みすぎると、酵母菌の増殖の邪魔になるわけです。いったん品温を上げた後、次は品温を下げるのは、そのためです。

難しい言い方をすると、糖化と酵母の増殖(アルコール生成)のバランスを良い状態に保つこと、それが早湧きを防止する目的です。そのためには酵母の栄養源が多すぎても困ります。むしろ、酵母の栄養分が充分でない状態を保って、そのなかで酵母菌が増えていくようにしたほうがいいのです。品温を下げれば、酵母の栄養源となる糖分の生成も抑えられます。

こうして酒母の品音を下げていく期間を打瀬(うたせ)期間と言います。
1日目は20度、2日目はまた12度、3日目には8度まで下げます。さらに3日目の朝には抱き樽を入れて、品音をいったん10度ぐらいにまで上げ、4日目の朝までには9度に下がるように調整します。
抱き樽というのはステンレスの円筒で、昔は木の樽でした。その中にお湯を入れて酒母タンクに沈め、酒母の温度を上げるのです。温度が上がりすぎる時は氷水を入れることもあります。

抱き樽を入れたり出したりして、品音を調整することを「抱き操作」と言います。この抱き操作を2、3回繰り返す頃には、酒母の糖度が最も高くなる時期を迎えます。麹菌が十分に活動して、でんぷん質を糖化してくれた結果です。
この段階になると、たっぷり増えた糖分を栄養にして、酵母菌がどんどん増殖していきます。しかし、野放図に酵母菌が増えるようにしてやるわけではありません。酒母はこの後、もろみタンクの仕込みに使われて、アルコール発酵を進めると同時に、酒の味にも大いに関係しますから、粘り強く活動するような酒母に育てなくてはならないのです。
そのため、八海醸造の酒蔵では、酒母も低温長期発酵で造られるのです。抱き操作もそのためです。淡麗辛口で品格がある。そんな酒にふさわしい酒母を造るため、酒母からして低温長期発酵を造っているというわけです。

教科書とは違った櫂の使い方

櫂を使ってタンクの中の酒母やもろみをかきまわす。こうして発酵に必要な空気を行き渡らせる。

では、たとえば、最初の頃の20度の温度のまま酒母を造っていったら、どうなってしまうのでしょうか。温度が高いほうが酒母は早くできます。短期間で完成するわけです。しかし、これでは八海山の酒にふさわしい酒母にはなりません。何よりも肝心なのは、でんぷん質の糖化のスピードと酵母の増殖のスピードのバランスなのです。

酵母が増殖するスピードが速すぎると、糖分の供給が追いつかなくなってしまい、酵母が飢餓状態になって、酵母菌が十分に増殖できなくなるだけでなく、酵母菌そのものの力が弱くなってしまうのです。
どんな酒母が必要か、それをしっかり見極めたうえで使用する酵母菌を選び、それにふさわしい麹菌を育てて、理想的な酒母を育てるために、あえて厳しい条件の中で酒母造りを進める…。このことからも、八海醸造の酒造りにかける姿勢がわかっていただけるのではないでしょうか。

酒母タンクも何度か櫂を入れて、発酵を進めてやります。櫂を入れるというのは、長い棒の先に小さな板をつけた道具でタンクの中の酒母やもろみをかきまわす作業のことです。こうすることで発酵に必要な空気が行き渡ります。
この櫂入れについて、酒造りの教科書には「櫂を入れるとき、蒸米をつぶして糊のようにしてしまうと、糖化が遅れるのでよくない」という意味のことを書いているものもあります。

しかし八海醸造では、とくに発酵の初期の段階の櫂入れのとき、あえて米をよくつぶすようにしています。そのほうが早湧きを抑えやすく、お酒になったとき味に幅が出るからです。
昔から酒造万流と言われてきました。酒造りは、たった1冊の教科書では書き尽くせないほど奥深いものがあるということです。八海醸造の蔵でも、あえて教科書とは違った櫂の使い方をしています。八海醸造が目指す酒のためには、教科書よりも、蔵人の知恵と技がより大切なのです。

 
 
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井出耕也[フリージャーナリスト]

 

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