八海醸造(株)における酒の種類と精米歩合の基準は下記のとおりである。
大吟醸酒 40% : 60%を研削
このように、高級酒になるほど高度精白のお米を使用して醸造されるのが一般的であるが、では単に高度精白した米を使用すれば良いお酒が出来るのか、というとそういう訳にはいかない。高度精白の米で仕込んだ場合、その白米の良さを最高限度に生かしきるためには醸造全工程の管理が非常に難しくなり、場合によっては普通酒以下の駄酒になったり、狙った酒質にならなかったりの場合もある。醸造作業は水質をはじめ、蔵の環境、従業員の資質や杜氏(製造責任者)の個性、技術水準の高さがものをいう世界でもある。
■麹
酒造りのことわざに一麹、二もと、三造り(もろみ)というのがある。これは造りの工程順を表現しいると同時に、この順番にその出来不出来が酒質に及ぼす影響の大きいことを教えたものである。麹の造りをないがしろにしてはいけないことの教訓でもある。
麹は蒸米に麹菌を繁殖させたものであるが、特に麹米は前述の好適米を用い、温湿度が厳密に管理された特別な製麹室(こうじむろ)で造られる。
麹のタイプは各社の考え方やその製造管理のありかたでいろんなものがあるが、麹菌の菌糸が蒸米の内部にまでしっかりと入り込み、粒の表面は嶋のように菌糸が浮き出ているもの(これをツキハゼと云う)が最高とされている。こうした麹を造るには、麹菌を散布する時点での蒸米の状態は外硬内軟といって粒の内部に適度な水分を残しながらも外側は比較的乾いた状態に調整することが大切である。麹菌の種類の選定や菌糸の発育の度合いにバランスした温度の誘導と蒸米乾燥の調整が製麹管理の重要なポイントとなる。

日本酒のもろみ中では(1)の糖化発酵と(2)のアルコール発酵がバランスよく同時に並行しておこなわれている。これを並行複発酵と称する
■酒母
酒母とは字のごとく、サケノハハでありアルコール発酵のもとである。酒のもとであるから酉へんに元とも書く。もろみでのアルコール発酵の原動力となる健康な酵母の純粋培養を目的としている。
酒母には雑菌汚染から身を守る自己免疫力のもととなる乳酸取得の方法により2つに区分される。1つは生きた乳酸菌の発酵により必要な乳酸を生成させる生もと系酒母(山廃酒母など)、他の1つは既成の乳酸を酒母仕込みの最初の段階で酵母とともに添加する速醸系酒母である。生もと系酒母は製造期間が1カ月近く要する上、操作が煩雑であるため現在これを採用しているところは非常に少なくなっている。他方の速醸系酒母は日数が約半分の2週間で出来上がることから圧倒的多数が普通速醸酒母を採用している。この製法は明治34年に新潟県人である江田鎌治郎先生が考案された方法である。
◎酒母の仕込み(普通速醸酒母)
酒母に使用する白米量はもろみ全体で使用する量の6〜7%である。
汲水に所定量の乳酸と麹、それに種酵母を添加した液(水こうじという)に仕込後20℃となるよう冷却した蒸米を投入し、櫂でよく攪拌する。3日目に8℃まで温度を下げ、以降少しずつ温度を上げて、8日目に20℃にする。9日目から徐々に8℃位まで温度を下げ、14日目にもろみに仕込む。酒母の液1ミリリットル中に約2億個の元気な酵母が培養されている。
◎もろみの仕込み(三段仕込み)
出来上がった酒母をもとに本仕込みにはいる。この本仕込みは三段仕込みという手法を採るのが一般的である。
段仕込みを行う理由は、一定量の酒母の中に一度に大量の汲水と麹、蒸米を投入すると酒母濃度や酵母密度が急に薄まり、雑菌汚染に対する免疫力も急に低下してもろみの腐造を来す恐れがある。そこで、
一段目の初添えでは酒母全量およびその約2倍量に相当する14%程度の麹、蒸米を投入し、
2日目は踊りと称して酵母の増殖を促し、もろみの自己免疫力増強のためのゆとりの時間として仕込みを休む。
3日目に二段目の仲仕込みとして全体の26%相当量の蒸米及び、麹を投入し、
4日目の三段目が留添えで、残り47%の仕込みということになる。(別に、5%分位は四段といって、甘辛調整用に、あらかじめ甘酒にしてお いたものを上槽前のもろみに添加する)
このような三段仕込み法を採用することで、もろみ中に雑菌が混入しやすい解放発酵であっても、酒母で培養された清酒酵母がもろみ中でも純粋にちかく増殖し、健全なアルコール発酵が保証されることとなる。
大吟醸酒とか、特殊な例を除いたロット当たりの一般的なもろみ仕込量は白米量で2トンから40トン程度である。
八海醸造(株)では、自然環境に恵まれた蔵の立地条件を生かすため、醸造の全工程に亘り、キメ細かな管理を優先させることの出来る小ロット仕込みと、味がきれいでかるく、ソフトで上品な製品に仕上がる低温長期発酵のもろみ管理にこだわりを続けており、ロット当たりの仕込量は白米ベースで2〜3トンである。
■吟醸酒
吟醸酒とはなにか、と問われれば、他の酒よりも吟味して造った酒、ということでなんともしまらない話になる。しかし、「清酒の製法品質表示基準」によれば、原料米の精米歩合が60%以下で、本醸造タイプの清酒、ということになり、八海醸造では本醸造以上の酒はみな吟醸酒の表示が可能となる。つまり、吟醸酒とは云っても特別な醸造工程があるのではなく、工程図にも示した各工程の純度を徹底的に高めて製造した酒ということになる。もちろん、吟醸酒、大吟醸酒と格が上になるほどその純度は上がり、繊細緻密な工程管理がなされることは当然である。