顕微鏡や分析機器のなかった古い時代に、なぜ有用な酵母だけを純粋に培養する方法を考え出すことができたのでしょうか。日本人の知恵と工夫、永年にわたる経験、よりおいしい酒を造ろうとする強いこだわりの結果としか言いようがありません。
酒母の仕込材料(原料)は米麹、蒸米、井戸水や一見きれいに見える河川水の3つだけです。これらの原料には当然ながら製造中に酒を腐らせたりする、よからぬ微生物(雑菌)も少なからず含まれていると思われます。仕込配合と仕込温度、その後の温度管理により、仕込後すぐに水に含まれている“硝酸還元菌”が増殖を始め、水に含まれている硝酸塩が還元されて殺菌力の強い“亜硝酸”という物質が生成されます。
この亜硝酸は7日目頃に10ppm程度の濃度になり、その後急激に減少しますが、亜硝酸が消滅する前に酒母中に自然混入した乳酸菌が増殖を始め、多量の乳酸が生成されます。このとき酒母は酸性の状態となり、pHは3.5程度になります。
この亜硝酸と乳酸の協同作用による殺菌力で、硝酸還元菌などのバクテリア類や野生酵母が死滅し、乳酸菌も自分の生成した乳酸で死滅し、酒母は無菌に近い状態になります(14日目以降)。この時期になると、殺菌力の強い亜硝酸も自然消滅し、乳酸酸性と栄養豊富な酒母環境となります。ここに蔵内に棲みついている家付き酵母や協会酵母などといった優良酵母を添加してやれば、酒母は純粋培養で仕上がり、もろみも純粋で香味の良い酒ができあがる、ということになります。
こうして、殺菌剤を一切使用することなく、生きた微生物を巧みにコントロールすることにより安全なアルコール発酵を行うことを“自然的純粋酵母培養法”とも呼び、世界に誇る日本独持の酒造方法なのです。
この山廃手法による酒母造りは1カ月を要するので、期間を短縮して安全確実な酒母造りということで発明されたのが普通速醸酒母(約2週間)や高温速醸酒母(約10日間)です。生きた乳酸菌を利用するのではなく、酒母の仕込時に所要量の乳酸を添加してやる方法が特徴となっています。 |
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